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「嘘」という歌詞から見るサカナクション

ある基準に基づいてサカナクションの曲を並べてみた。

あめふら、ワード、ナイトフィッシングイズグッド、雨は気まぐれ、enough、アンダー、ドキュメント、映画、ミュージック。
 
これらの曲の歌詞には、ある言葉が出てくる。
「嘘」という言葉だ。アルバムでいうと1stから最新の6thまで、どのアルバムにも入ってる。
 
サカナクションは、インディーズ時代(北海道)→3rdアルバムで上京→5thアルバムで時代を歌うことを意識する→6thアルバムでチャート1位→紅白歌合戦出場(2013)→日本アカデミー賞 最優秀音楽賞受賞(2015)
という怒涛の環境の変化を潜り抜け、時に深海の果てまで潜り、浮上し、泳ぎ続けてきたバンドだ。
紆余曲折ある中でも、一貫してどのアルバムにも出てくる言葉「嘘」。サカナクションを読み解くキーワードになりそうで、とても気になる。
気付いてないだけで他にも該当する曲があるかもしれない。
 
調べてたら、「嘘」について、一郎さんのインタビューで気になる発言を見つけた。
 
僕はずっと思ってることがひとつあったんですけど、例えば「偽善」って言葉があるじゃないですか。エコとか「地球大事にしよう」とか言うと、逆に嘘くさくなる。本音なのにそれを「嘘だ」と受け取られる傾向がある。僕はそれはすごく悲しいことだなと思うし、だけど「嘘だ」と言う人の気持ちも分からなくない。じゃあ、僕らはどういう風に本音を伝えていくべきなのか?それを歌にしたのが『enough』です。それを小さい規模で、自分の中だけで言葉にした曲。」
 
この一郎さんのインタビューを踏まえて考えてみる。サカナクションの歌詞において「嘘」とは何か。それは、伝わらなかった「本音」ではないだろうか。
 
語られた本音が、綺麗事や調子の良い話に受け取られた時、その理想は「嘘」とみなされてしまう。曲解されることで僕の本音が嘘になった、その悲しみの最中にいる彼が「『僕は贅沢を田に変えて 汗をかく農夫になりたい 嘘です』が、嘘です」と本音を吐露する歌、enough 。
 
また、別の見方もできる。「僕は贅沢を田に変えて 汗をかく農夫になりたい ...嘘です(笑) 」と、つい理想の青臭さ故に、相手に本音を伝えたくない自分がいる。でも、この恥ずかしい気持ちに蓋をして、包み隠さず本音を伝えようとする。
 
この二つの面からenoughを見ると、「汗を流して、働きたい?そんなこと言って、本当は楽をしたいんだろう?」と疑いの眼差しを向ける相手への宣言、そして愚直に自分の理想を追い求めたいという叫びにも聞こえてくる。
 
どんな言葉が、嘘になるか。
相手に理解されず、疑われ、伝え損なった本音が嘘になる。
自分の気持ちを隠し、偽り、伝え損なった本音が嘘になる。
サカナクションは「嘘」という言葉で人間の心のすれ違いを描こうとしている。
 
嘘に慣れた僕らは 素直になれなくて いつも一人ぼっち
(ワード by サカナクション)
 
痛みや傷や嘘に慣れた僕らの言葉は
疲れた川面 浮かび流れ 
君が住む町で 消えた
(ミュージック by サカナクション)
 
2ndアルバム一曲目のワード、6thアルバム収録で紅白で披露したミュージック。言葉はあるのに通じ合えない。空っぽの言葉さえも消えていく。言葉はあっても孤独な感覚を掬い上げた詞だ。
 
ではサカナクションが誰かへ「本音」を伝えようとするとき、どんな言葉が紡がれるのか。
 
今までの僕の話は全部嘘さ この先も全部ウソさ
(ドキュメント by サカナクション)
 
何度でも何度でも 話すんだ 僕らしく
嘘でもいい 嘘でもいい話を 
 
「嘘」という言葉だった。「今まで本音を伝えてきたけど伝わっているのかわからない。嘘って思われてるかもしれない。でも、嘘だって思われても、音楽を続けるんだ。それしか、ないんだ。」っていう、この覚悟である。
 
サカナクション、泣かせやがる。
 
今年中に出るって噂のアルバム曲に、果たして「嘘」という言葉は含まれているだろうか。