読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

anonymoUS

found by U

相対性理論presents 『天声ジングル - ∞面体』ライブ@山口情報芸術センター(YCAM)

相対性理論 ライブ記録

相対性理論のことしか考えない一日はかくも素晴らしいのかと。


◎山口遠征レポ目次◎
▼天声ジングル 映像音響インスタレーション
▼タンパク質みたいに
▼わたしは人類
▼ライブ


相対性理論の「天声ジングル」というアルバムは、武道館を「ただの八角形のハコ」として機能させ、バンドは、キャリアの集大成やメモリアル公演、など武道館の記号性とは無縁のパフォーマンスを繰り広げ、夏の大八角形を完全制覇していたのだけど(客席全員着席だったのはさすが)、まだ拡張する余地を残していたとは!!

相対性理論というユニットの表現に可能性と未来を感じさせる企画だった。これからの相対性理論がとても楽しみだし、音楽を作ってライブをする以外の活動に果敢に挑んでいる姿は、ファンの信頼と期待を満足させるに十分だと思う。ポップユニットとして自らを位置づけながら、一見すると難解な、でも実はエンターテイメントとして楽しめるものを提供してくれる相対性理論が、大好きで仕方ない。

サカナクションも、音楽とファッション、クラブカルチャーとの融合を図ってNFなど独自路線を走り始めているけど、相対性理論やくしまるえつこもまた「マジョリティの中のマイノリティ」として暗躍していると感じている。

▼天声ジングル 映像音響インスタレーション
スタジオに足を踏み入れると、真ん中に人が乗れる八角形の白い台(スクリーン)が置いてあって、その両サイドには中央が凹んで、くの字型になったスクリーンが設置されていた。この三つのスクリーンに、楽曲に合わせて映像が投射されていた。映像は、武道館の時と同じかな?宇宙の誕生を思い起こさせるような、天体&魔法陣っぽい感じの笑。

スタジオ入ったとき、7-8人のファンの人たちが、それぞれ絶妙な距離を置いて台の角に立ち、誰も話さず、じっと下を見つめている光景は完全に何かを召喚する儀式だった。お客さんたちは、一人で来てる人が多くて(男女問わず)、ひたすら飽きずに自分の世界に入って、ぼんやり左右のスクリーンを眺めたり、足元に映る映像に見入って、あまり動かない。しゃべらない。そして滞在時間が長い。じっくり自分の内面世界と向き合っているようでした。

複数のスピーカーが円形に設置されていて、天井にもあったようだから、スタジオ全体がスピーカーに囲まれて、ドームみたいな状態だったことになる。八角形の白い台に乗っていると、低音が足元に伝わってきてブルブル振動した。

▼タンパク質みたいに
夜、閉館した図書館の館内をプロジェクションマッピングするという、このフェチを直球に突いてくるようなインスタレーション。ここ、ライブ始まる前は、市民の方々が図書館として利用してる場所で、だから本棚とか、もうそのまんまな訳です。ライブ後、お客さんの数が多くて、三分ずつ区切っての展示になり、ちょっと早足に。

異空間だった。吹き抜け構造になっているので、渡り廊下から図書館内を見下ろすような形で鑑賞。館内にはテキストと、やくしまるさんの影が浮かび上がっていた。やくしまるさんの朗読に合わせて、投影されている文字がバラバラとウェーブのように踊った。手すりのところには何ヶ所かiPadが置いてあって、投影されているテキストを、クロスワードパズルの図面のように見ることができた。横にいたお兄ちゃんが、iPadを変にいじってしまったらしく設定モードになって、友達らしき人と一緒に「やべえやべえ」「すいませーん画面変わっちゃったんですけど」ってなってた。館内はやくしまるさんの声が染み渡って、夜の図書館が近未来的な空間と化していた。

▼わたしは人類
案内看板の通りに進むと、実験室のようなところにたどり着き、「展示見るには、このクリーム色の鉄扉をくぐらなければならないのか」と衝撃が走った。扉の前には、YCAMのスタッフさんが控えていて、「ファンの方でいらっしゃるということで、お詳しいと思いますけど」と、謙遜されてしまいつつ、丁寧に説明してくださった。

「シャーレの絵も、えつこさんがお描きになったそうですよ」とのこと。えつこさんとか呼び慣れてなくて、何だかクスリとしてしまい、くすぐったい気持ちに。

重い扉を開けると、漏れ聞こえていた「わたしは人類」の音がグワン、と流れ出てきた。部屋の入り口には厚手のビニールが二枚かかっている。中は暗くて、人が三人入ると一杯になってしまうくらいの小ささ。入って右手に30×30くらいのブラウン管テレビが置いてあって、黒いマントを着たアー写のやくしまるさんが映ってた。

扉のない縦長の冷蔵庫みたいなところにバイオアートが設置されていて、その前には「わたしは人類 培養中」と書かれた規制テープが張られていた。このシャーレで培養されている微生物に楽曲が埋め込まれている、そこから今聞いてる曲が流れているって、つまり、つまりどういう状況なのか全く想像つかなかったけど、「なんか…なんかよくわかんないけどスゲー!!」って友達と意思疎通できたので、満足して実験室を後にしました。

▼ライブ
13時から整列開始、14時から整理券配布開始というスケジュールに合わせて、ホワイエにはガチ勢のみなさんがぞろぞろと、だけど静かに集まっていた。整番は早いもの順だったので、運ではなく、多少のタイミングと辛抱と努力で良番がゲットできるというシステムだった。

開場が15分ほど遅れて入場。SEはクラッシックのピアノ演奏がずっとかかっていた。YCAMのスタジオAは、客席設置時だとキャパ450人らしい。作りは渋谷のWWWXに近いかな?という印象を受けた。ただ、天井が見慣れた中規模ライブハウスよりもすごく高い気がした。後ろのお兄さんたちが「開演前って一人で来てるときヒマだよなー」「なー。もう周りの会話を盗み聞ぎするくらいしか楽しみがないwww」みたいな会話をしていて、うわーそれ分かりすぎるぞ…と心の中で握手を求め、共感しながら、いよいよ辛くなってくる足の痛みをごまかしていた。

なにせ開演が30分ほど押していたのだ。

会場の集中力と緊張感が切れてきたころ、音もなくメンバーが登場。一瞬で空気が変わる。歓声も起こらない。相対性理論のライブで、やくしまるさんが登場し、歌い出すまでの「間」はかなり特別な時間だ。この場にいる全員の関心が舞台に向く。間もなく彼女の声が会場を支配するのを予感して、誰もが身構える。皆の視線を一手に集めた彼女は、再び高まった緊張感を無効化させるような、それでいて新たな磁力を発生させるような、不思議な声で歌い出した。そう、あの「声」で。

序盤は天声ジングルからFLASHBACK、おやすみ地球、天地創造SOSと続いた。FLASHBACKのラストではやくしまるさんがCLAP、天地創造SOSの間奏では実際に電話(本物の黒電話?が左手側に置いてあった)をかける仕草も。フロアとバンドとの間は薄い紗幕で隔てられ、インスタレーションでも流れていたような映像や、波型のレーザーが投射される。この紗幕、開演前にかかっていたことに気づかなかったほど薄い。それでも、まだ相対性理論は「向こう側」にいた。照明も明るくメンバーを照らしていなかった。

ここで演奏が一旦途切れた。MCタイムだ、とそわそわする。彼女が紗幕の向こうでおもむろに口を開く。よく見えなかったけど、きっとそうだ。

相対性理論プレゼンツ天声ジングル∞面体(ポリヘドロン)、開幕」

彼女の言葉を合図にするように、かかっていた紗幕が上がる。照明が明るくなり、姿が、表情がくっきりと見える。ああ、相対性理論って本当に存在して――と、息をつく間もなく、とあるAroundの弾けるようなリフに包まれる。顔が熱くなる。
これじゃまるで謁見じゃないか、なんだよう、と思いながらボロボロと泣いてしまった。

何よりやくしまるさんの存在を声だけでなく、姿で、表情で、佇まいで感じ取れたことは嬉しくて、感動的だった。相対性理論のライブにはそれなりに行っているけれど、全くメンバーは語らないし、ひたすらプログレみたいなセッションした時もあったし(褒めてる)、豪雨の中ずぶ濡れでSHBUYA-AXまでライブ見に行ったら一時間半で終わって、特殊公演は甘くなかったと悟った時もあったし(褒めてる)、まさかこんな至近距離で、彼らの存在を感じ取りながらライブ見れるなんて思ってもみなくて。実体はないけど相対性理論の存在を信じて救われていた中学時代からは想像もつかない事態に、涙はとどまるところを知らず流れてゆく。

やくしまるさんは武道館の時と同じヘアスタイルで、5分丈の黒いループニット風な衣装を着ていた。袖は透け感があって、背中側には白っぽいボンボンが複数個付いてぶら下がってた。その上にも何か着ていたのか、前掛けをパタパタするような動作で服と戯れていた。スカートは光沢のある黒っぽい7分丈で、プリーツが斜めにカットされていたように見えた。靴はマーチンみたいな感じで、靴下と合わせて履いていた。こんなに細部まで衣装が見えて本当に信じられなかった。

ステージセットは比較的シンプルだったけれど、イトケンさんと山口さんのセットはそれぞれ透明板で囲まれて、フロントに立つ三人とは隔離され、個室が生み出されていた(何故)。永井さんと吉田さんはシャツ、ジャケットに細身のパンツという清潔感溢れるスタイルで、時々お互いを見合いながら、時々表情を歪めて苦しそうにして笑、演奏を繰り広げる。

中盤にはシンクロニシティーンから小学館を披露。上海anでは白いリコーダーを演奏し、サビではかすかに左足で裏拍のリズムをとるやくしまるさん。後半は寒色のレーザーがステージの三か所くらいから上方向に放射され、スタイリッシュでインテリな雰囲気さえ感じる。ベルリン天使では、間奏の乾いたタンタンタン…という音をやくしまるさんがサンプラー(?)を叩いて生で演奏しているようだった。

と、次の曲に行く前に「友達連れてくるからちょっと待っちょって」とMCらしいMCをし、フロアも珍しくザワザワ、ヒューっとヤジが上がり、やくしまるさんがステージを去る。戻ってきた彼女の手にはケルベロスのパペットが装着されていた。ケルベロス、某狼バンドみたいに赤い舌がペロっと出ており、なかなか作り込まれている。パペットを付けて歌うやくしまるさんは、ディムタクトを聖剣のように正面に抱える姿とは雰囲気が違って、このときは、少し謎めいたベールが揺らいで、隣にいてもおかしくないかも、と思った。歌い終わると、ペコっとケルベロスもお辞儀をしていた。

そして、パペットを外して後ろの一人掛けソファに置く動作が、優しい。

ケルベロスのパフォーマンスですっかり温まったお客さんは、次のミス・パラレルワールドでゆらゆらと揺れて、ようやく緊張感より楽しさが勝って出来上がりつつある。弁天様はスピリチュアでは、ラベンダー色のレーザーが真っすぐに伸びて、凛としたハープのような音色と、穏やかな歌声が会場を癒してゆく。満たされた気分のまま、本編は「バイバイ」というMCで締めくくられた。

メンバーがステージを去った後、はっと我に返ったかのようにざわめき出すお客さん。拍手に応えて再登場した相対性理論がアンコール一曲目に披露したのは、ロンリープラネット。紗幕を下ろし、照明も暗めだ。ステージ後方のスクリーンにはMVが投影されて、本物のやくしまるえつこと、映像の中のやくしまるえつこがステージに同居する。そして最後に演奏されたのはわたしは人類だった。紗幕が上がり、やくしまるさんがPCを操作してトラックが流れ出す。円盤のような形のサンプラーをいじりながら、自身の声を素材に音を生み出してゆく。間奏では、音の洪水のようなセッションが繰り広げられ、混沌とした世界が創り出される。そこから徐々に、ドラムとパーカスがグルーヴを作り出し、グッとセッションのラストスパートに持っていったのは胸が熱くなった。

「おやすみ」と一言フロアに投げかけてやくしまるさんはステージを去り、永井さんが深々とおじぎして、∞面体ライブは終演した。

誰もが終演と同時に襲い来る足の痛みに耐え、そして物販を何となく眺めながら名残惜しい気持ちになり、会場の外の冬の寒い空気に触れ、ああ相対性理論って本当にいたんだな、と幻を見たかのような、ふわふわとした気分になっていたことだろう。