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TOMOE 2019@マイナビBLITZ赤坂 (2019.6.14)

例えば新学期のクラス替えで偶然席が近くなったクラスメイトと、会話をして、仲良くなって、一緒にいるようになって。だけれどもいつの間にか、それぞれに気の合う仲間を見つけて、だんだん一緒に居る時間が少なくなって、気づけば最初の関係は最初から無かったように、解消されていくような。春の淡い季節の記憶。何も始まっていなかった頃の記憶。あの子たちとは結局、次のクラス替えで離ればなれになった。お互い仲が良かったことなんて忘れてしまっただろうか。

TOMOE2019というイベントを見ながら、そんなことを考えた。

tacica, THE NOVEMBERS, People In The Boxという3バンドが7年半の歳月を経て、一堂に会する機会を設けた、なんてロマンチックな話だと感じる。けれど本人たちは、至極シンプルな向き合い方をしているのだと思った。次はあるかもしれないけれど、具体的な約束もしない。それが彼ららしさなのだ、と。

私の目当てはtacicaで、だけれど精神性やファッション性に関しては耽美派なノベンバが大好きだし、ピープルはART-SCHOOLとの対バンで見たときの難解な絵本のような雰囲気が忘れられずにいて、とても楽しみにしていた。

tacicaは、本当にここ数年の間に変化したと思う。メンバーの脱退を経て、サポートメンバーを迎えながら活動を続けていくうちに新たな風が吹き込んで、どんどん開かれて解放的な陽だまりのような音楽が生まれていくのを感じていた。一ファンとして驚きと共に、戸惑いも覚えながら。

最新作のpanta rheiにて「万物は流転する」とテーマを打ち出した彼ら。変化を肯定すること。変化を恐れないこと。変わっていく自分を楽しむこと。変わらないものなんて、無いってこと。それは諸行無常であるとか、盛者必衰の理というように悲観的に、否定的に捉えられることもある。けれども、今のtacicaにとって変化は間違いなくプラスに作用するものであると思う。体制が変わったからこそ、挑戦出来る選択肢が増えた。ならば、それを選ばない手はない。今作からはtacicaの決意が感じられて、自らの変化を受け入れ、新たな表現へ向かおうとする姿はヒーローだと思った。

TOMOEのセットリストは
YELLOW
刹那
煌々
name
LEO
人鳥哀歌
キャスパー

という流れ。(Twitterより)

転換中、ステージをセットするときに、中畑さんが軽くドラムを叩いていて、それに合わせて小西さんがベースを弾いていたのが楽しそうだったな。4人とも出てきて各々セッティングしていた。

YELLOWの独唱からライブはスタート。猪狩さんの声は求心力がある。

「日常」だとか「大人になる」、「回想」というテーマが色濃く出ている「煌々」のような曲を、キャリアを積んできた今のtacicaに歌われると、泣けて仕方ない。

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極端な言い方をすると、「何も無くても生きていていいんだ」と思えるような曲。シビアな目線であれば「何も無くたって生きていくしかないのだから」とも取れる。過ぎ去った季節に思いを馳せて、今の自分と比べて落ち込んだり、何者だと言い切れない自分に対して焦ったり。そんな風に焦燥感のある毎日で、いつもの暮らしに追われているばかりで。何も進めていない気がする、と思ってふと足がすくんでしまう。そんなときに、「煌々」という歌は、今生きているという、シンプルな命の呼吸を思い出させてくれる。ソリチュードとしての充足感を聞く人に与えてくれる。日常を肯定してくれる、とも言えるし、命そのものを肯定してくれるような包容力のある歌。必聴なのです。

数少ないMCタイムの中でピープルのツアー告知を猪狩さんから聞く日が来るとは思わなかったw 大吾さんが忘れたらしい。盟友バンドの告知をした一方、残念ながら、tacicaからの告知は無いw

比較的新しいアルバムからの選曲が続き、懐かしい曲枠に何が来るのかと思っていたが、「人鳥哀歌」のイントロにフロアが反応する。

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隠れていたtacicaファンなのか、ピープルかノベンバのファンなのか、大人しそうに聞いていた人たちも体を揺らして楽しそうな様子が印象的だった。

最後は「キャスパー」で締めくくる。この歌に描かれる主人公のような夜を、出演者たちも皆、過ごしてきたのではないかと思った。良く分からない音楽の海に身を投げ、スピーカーから聞こえる声に耳を傾ける。その声はCDコンポから聞こえてくる、ひねくれた道化のミュージシャンの歌声なのかもしれないし、スマホのスピーカーから聞こえてくる、離れた場所で暮らす大切な人との会話のかもしれない。一人の夜に寄り添う音は、体に染み渡って、変拍子みたいな鼓動の指揮を取る。それが規則正しい寝息に変わるまで。